なぜリゾ婚を選んだのか ハワイ3人旅@美佳の場合

美佳は結婚を控えた陽子に誘われて、ハワイに3人で旅行することになった。もう一人の亜美とは、高校卒業以来、久しぶりに話をする。陽子はなぜ私と亜美を誘ったのだろうか?戸惑いながらも美佳は、ホテルのベランダで亜美と話し始めた。

目次

ワイキキの夜景を見ながら

「ねえ、なんで私を誘ってくれたの?」

「え? 3人で行こうと陽子と話したんだよ?」

 亜美はふーんという顔をして、また窓の外を見た。
嘘をついたと思っていない。

3人目と誘った子の予定が合わなくなって、もう一人はどうしようと陽子にきいたところ、
「亜美でいいんじゃない?」と答えたからだ。

高校時代はお互いよく知っていたのだが、大学に入ってから私は亜美と会うことはめったになくなった。

陽子とは就職してからも年に数回は食事をしていたのだが、亜美とは高校を卒業してから会っていない。

正確に言うと、就職の少し前に中学校の同窓会があって、3人とも出席した。
そこで陽子と亜美は話をしていたらしいが、私は亜美を見かけはしたけど声をかけなかったのだ。

「美佳も亜美もベランダで、なにしてんの?」
陽子がドアを開けて、私たちの間に割り込んできた。

「え? ほ、ほら、ワイキキの夜景がきれいだから眺めていたんだよ」

 私の声は少しうわずっていなかっただろうか。陽子は周りの空気を気にしないところがある。

でも、明るくあっけらかんとしているので、みんなに好かれている。それが、私が陽子といまでもときどき会う一番の理由でもある。

「ほんとだ! ホテルがビーチのすぐそばにあるから、海岸もすごーく明るいね。ああ、やっぱり来てよかった!」

「そうだね」

 陽子のはしゃいだ言葉に、先に答えたのは亜美だった。
亜美の顔をそっと盗み見ると、笑っているように感じた。

少しほっとする。

それから数分の間、3人とも黙って煌びやかな海を見ていた。
「ねえ、陽子が結婚する彼って、どんな人なの?

 私の突然の質問に、陽子は「えー、フツーの人だよ」と、笑いながら話してくれた。
「ネット広告の代理店に勤めていて、2つ上なの。ちょっと太っているけど優しい人。こないだもさ」

 そして二人で居酒屋に行ったときのエピソードを教えてくれた。

何でも陽子の好きなものを頼んでいいよというので、白子の唐揚げを頼んだら、本当は白子は苦手なのに、顔に出さないで半分食べたんだそうだ。

「帰りに本当は白子だめなんだって白状したから、教えてくれれば頼まなかったのにって言ったら、私がすごく好きっていうから、もしかしたら自分も好きなるかもと思って食べてみたって。本当にバカじゃないのって思っちゃう」

「ああ、それはバカだわ」


 亜美のつっこみに、みんなで爆笑する。
もちろんわかっている。
陽子はこういう良い人に好かれてほしいと、まわりの友達全員が思っていたこと。

そして、こんな臭いセリフが言えるようないい人こそが、陽子を幸せにできるってことを。
亜美と私はわかっているからこそ、爆笑したのだ。

「今度、彼に会わせてよ」

「そうね、じゃあさ、4人でご飯に行こうよ」

「じゃあ白子の天ぷら、頼んじゃおうか?」

「それいいね! どういう顔をするか見てみたい!」

「きっと黙って食べちゃうんじゃない?」

「そんときは陽子はどうするの?」

「食べるまで、じいーーーっと見てる」

ぎゃっははは! また3人で大笑いした。

「ねえ、結婚式はハワイでやるの?」

「そのために今回来たんでしょ?」

「彼の夢なんだって。真っ白な教会で神父さん前でキスするのが」

「きゃあーーーなになに、ロマンチックなところもあるんじゃん!」

私たちの容赦ない突っ込みに、陽子はベランダの向こうの夜景よりも眩しい笑顔で微笑み返した。

高校時代の亜美と陽子と私

 私と亜美は高校時代にバスケ部にいた。
亜美は長身でパワーフォワードを務め、私はベンチ入りぎりぎりのスリーポイントシューターだった。

要するに、亜美はバリバリのレギュラーで体を張ってゴール下でシュートするタイプ、私は遠くからシュートするタイプでレギュラーになかなかなれなかった。

それでもバスケは楽しかったし、土日もさぼらず毎日へとへとになるまで練習していた。


 2年生になってすぐの春先のことだった。うちの高校のSNSに、「女バスの2年でいじめが起きている。レギュラーの●●がその主犯だ」

という内容が匿名で投稿された。書いたのはおそらく女バスのメンバーだろうと犯人探しが行われたが、誰だかわからなかった。

それでも8人いた2年の間では明らかに雰囲気が悪くなっていく。レギュラーと言える2年は4人ほどいたが、当然その中に亜美はいた。


 タイミングが良かったのか悪かったのか、この時期、私はひざの靱帯を痛めて、練習を休んでいた。

バスケは中学から5年ほどやっていたので、けがしたのはとても悔しかったが、SNS騒動もやめるきっかけのひとつかもしれない。

ケガが治っても元の状態に戻すまで6か月かかると言われたし、自分の限界も感じていた。

そんなときにレギュラー組と補欠組が分裂し、練習でもお互いに言葉をかけなくなった雰囲気の悪さが嫌いだったからだ。

 松葉杖を使って登校していた私は、体育館に行くのをやめて、時間があると図書館に行くようになった。

そこで図書委員だった陽子に声をかけられた。
中学が一緒だったのは知っていたが、体育会系と文化系では遊ぶこともほとんど無かった。私の成績は下から数えたほうが早かったし、陽子は成績上位者に名を連ねることもあった。


ある日、棚の上の東野圭吾を取ろうとしたときに、陽子が「こっちも読んだら?」と別の本も取って渡してくれた。松葉杖を使いながらよろよろと本棚から本を抜き取るのが可哀そうに思えたかららしい。


いつの間にか一緒に帰ることが多くなった。
帰り道で陽子は名作に対するトンチンカンな推理を披露しては、私を笑わせた。
陽子は松葉杖を持つ私を支えてはくれるけど、なぜ体育館に行かず図書館に来るのかは聞いてこなかった。

それから毎日のように一緒に帰っては、推理小説の珍推理からヒットソングのうろ覚え歌合戦へ、そして漫画の主人公の性格分析、学校の先生の変なクセ、サイゼで300円で過ごす方法などを、お互いに勝手に言い合っては笑っていた。

 卒業するころには誰にも言えないことを話せる友達になっていた陽子は、私が心にしまっておいた女バスのSNS騒動のことも、膝のけがとバスケに対する思いも、一番理解してくれていたと思う。

陽子と亜美と私が水着に着替えたら

 ワイキキの海岸では、陽子が水際を飛び跳ねながらはしゃいでいた。

ばしゃばしゃと水が跳ねて、彼女の顔にまで届いている。

「きゃあああ、つめたーーい! ねえねえこっちで泳ごうよ!」

 砂浜のシートに座っている私たちに声をかけてくる。

亜美はその様子をまぶしそうに見ながら日焼け止めを腕に塗っている。

そして私のほうに顔を向けて聞いてきた。

「陽子って変わらないね」

私は、そうよね、と、うなずく。

そうして自分のシートの上に荷物を置いて座った。

「私、ハワイ旅行に誘われて、うれしかったんだ」

 亜美の言葉は私の耳に届いていたが、何と返事していいかわからなかった。
亜美は私の返事を待たずに話始はじめた。

「高校んときに美佳が女バスやめたじゃん。クラスが違うから、それから美佳となかなか会えなくなって、なんかのときに美佳と陽子が二人で帰っているところを見たんだよね。私たちみんな”おな中”だから陽子のこともよく知っていたけど、二人が仲良いって知らなくて。なんかバスケ仲間を取られた気になっちゃって、陽子に言ったことがあるの。『なんで美佳と仲いいのって』。そしたら陽子に『じゃあ今度3人で遊びに行こうよ』っていわれちゃってさ。
あんときは結局、女バスの練習ばっかで行けなかったけど、今回、その時の約束を守ってくれた気がする」

 亜美は日焼け止めを今度は脚に塗りながら、私のほうを向かずに話しかけていた。
私はまだ何と言っていいかわからなかった。ただ当時、陽子に言われたことを思い出した。

「今度さ、亜美と3人でカラオケに行こうよ。私、女バスの子とも話してみたいし」

 きっと私は不思議な顔をしていたのだと思う。
そのときには陽子には女バスの人間関係のことは説明していたし、私が辞めた理由がケガのせいだけじゃないことも話していた。

陽子と亜美の関係はよく知らなかったが、3人で遊ぶという気分にはなれなかった。
亜美とはけっこう気が合うほうだったので、避けているつもりはなかったのだが、いや、避けていたのかもしれない。

亜美と話して、バスケに対する思いが自分の中に沸き上がってきたら、どうなってしまうのかもわからなかった。

陽子に向って二人で叫んだ

「陽子ってさ、変に鋭いところあるんだよねえ」

「そうなの?」

「亜美は陽子とはどうだったの?」

「本当はね、中学のときはけっこう遊んでた。バスケのない日とかに。高校で練習ばっかになってあんまり会えなくて。大学も別だったけど、親同士がけっこう仲良くて、何しているかは聞いてたんだ。あの子のお父さん、50代で死んじゃったでしょ?」

陽子が20歳になる前に、彼女のお父さんは交通事故で亡くなった。

保険とかで生活に困るとかではなかったけど、自分の小遣いはバイトして稼いでいた。

何度かバイト先に遊びに行ったことがあった。

「ケンタでバイトしているときに偶然会って、それからたまに会うようになって、愚痴聞いてもらってた」

知らなかった。亜美も私と同じように、陽子と会ってたんだ。

「そんときに美佳のこと、教えてもらってたよ。3人でご飯行こうよって、そんときも何度か言われた。でも、なんだかウンって言えなくてさ。中学の同窓会の時も、美佳に声かけづらくて」

「実は、私もそうなんだ」

「えっ?」

「途中でバスケ辞めたことは後悔してないけど、亜美と話ができなかったことは、嫌だなと思っていた」

「そう、、、なの?」

 そのとき浜辺にいたはずの陽子が、びしょ濡れで私たちのところに転がってきた。

「ねえねえねえねえ、なにやってんのよおお!? 

ほら早く二人とも行くよ! 

海がすごくキレイなんだから!!」

 きゃあああと叫びながら、陽子はまた浜辺に向かっていく。

それを見た亜美は、“ようし”と声を出して立ち上がった。

「海に入ろう!! ねえねえ、美佳はいかないの?」

亜美から名前を呼ばれるのは、本当に久しぶりだ。

ワイキキの夜景を3人で見てから、少しだけ昔に戻った気がする。

どこかくすぐったく感じながらも、私は答えた。

「私も行こうかな! それとさ。。。」
 

私は亜美に耳打ちした。
亜美はうんうんとうなずいている。

そして私たちは陽子に負けない叫び声をあげなら、彼女のいる浜辺に走っていった。

透明な波をジャブジャブと踏みつけながら、二人で陽子に冷たい海の水を投げつけた。
そして二人で彼女に向かって叫んだ。

「陽子、結婚おめでとう! 幸せになれよ!!」
「最高の旦那さん見つけたねええええ!」
陽子がくしゃくしゃに笑いながら、私たちに飛びかかってきた。
「二人ともハワイの結婚式に来てねええええ」